それは、とある歓楽街焼肉屋店内の一室。 それも貸切の部屋で、始まった。 「では、これよりKOTRT東京奪還作戦成功を祝って、乾杯!」 内藤の掛け声と共に、室内にいる全員が一斉に、乾杯とグラスを掲げた。 普段と変わらぬスーツ姿の内藤が、前に出て宴会の進行役を務めている。多分、本人からしてもこれが最初で最後だろう。 東京での作戦が終わり、事後処理が終わった後。 作戦に参加したガルボ、ヴィードルッシェ、英翔は、内藤に率いられて焼肉屋の貸切部屋に連れてこられた。 「今回の作戦は多少のトラブルもあったものの無事終了した。改めて、ご苦労だ。だが――――ッ」 そんな、めでたく楽しい筈の宴会なのに、内藤の機嫌は悪い。 それもそのはず。 この貸切の室内には、東京奪還作戦に参加していない者も含まれていたからだ。 「何故、東京奪還作戦の時に召集をかけても来なかった者が、ここにいるのだ!?」 室内に溢れかえるKOTRTメンバーに、内藤は声を張り上げた。 そう、この宴会には、作戦召集の時に来なかった者まで、KOTRTメンバー全員が集まっていたのだ。 「いいじゃない、内藤。そんなカタイこと言わないの」 「黙れ、スネーク。それにお前は招集をかけても来なかった者のうちの一人だろうが!」 抗議の声を漏らす長身痩躯の女性に、内藤は喝を入れる。 彼女、スネークはKOTRTの第七席で、召集欠席の常習犯なのだ。 「はは、みんな元気だなあ・・・」 そんなやり取りを見ながら、英翔は苦笑いを浮かべた。 英翔は、本当はこの打ち上げに来るつもりはなかった。あんな事件の後だ、とても酒を呑む気になどなれない。 だが、ガルボとヴィードルッシェに引き摺られる形で、この焼肉屋に連れてこられた。 貴子は、来なかった。 ガルボ達が、英翔と同じように無理矢理連れて行こうとしたのだが、取り付く島も無く、すぐに帰宅した。 そして、当然の如く、響次の姿は無かった。あの無線以降、何の音沙汰も無い。 まるで、霧のように消えてしまった。 目の前では、作戦に参加している、いないに関わらず、KOTRTのメンバーが酒を煽って騒いでる。 それが、英翔には遠い場所に感じられた。 あんな出来事の後だからだろうか。それとも、自分の死が近いからだろうか―――――。 「隣り、良いですか?」 「え―――――?山田先生?」 振り向くと、そこに見知った人物が居たので、英翔は驚いた。 山田先生と呼ばれたこの人物、実はKOTRTに入隊してからの英翔の師匠であり、KOTRTの第六席でもある。 だがその外見は、何処にでもいそうな四十過ぎの冴えないリーマンといった風貌だ。お世辞にも、特殊部隊の一員にはとても見えない。 「今回の作戦は大変だったそうですね。すいません、私も参加できなくて」 「いえ、良いですよ先生。中東の方に治安維持で出向いてたんでしょう?」 「はい。なかなか厳しい環境でしたよ。そうだ、今英翔君にぴったりのお土産があるんです」 「お土産・・・ですか」 「はい」 そう言うと、山田は懐から一枚のメモ用紙を取り出し、さり気なく英翔の手に握らせる。 それを、英翔はそっと手の内で開いた。 そこには、数行の文字の羅列があった。 「これは・・・錬精術?」 「はい。それも少し特殊なもので、外見を繕う、いわばお化粧みたいなものです」 「そんなものを、どうして私に?」 「いずれ、必要になるでしょう」 いずれ必要になる。 その言葉を聞いて、英翔は胸のうちで心臓が跳ねるのを感じた。 いずれ―――――いずれ、被曝の症状が出始める。 そうすれば、否でもそれは外見上に現れるだろう。霧恵に隠し通すことも、無理だ。 「先生・・・・・・私が、もう長くないことを?」 「分かりますよ。戦場で、貴方みたいな顔をした人を沢山見てきました。皆、数ヵ月後に死にましたよ」 「―――――ッ!」 周囲の音が、ますます遠ざかる。 メモを握った手が、震える。 「・・・貴方の師として、たったこれだけのことしかしてやれない事を歯痒く思います」 「いえ、ありがとうございます先生。これだけでも、充分です」 「そうですか。すいませんね、本当に」 山田は、グラスに入ったビールを手に取り、そのまま一気に飲み干した。 酒に強くないのか、頬がすぐに赤く染まる。 「・・・・今はこの宴会を楽しみましょう、英翔さん。少しでも、残された時間を笑って過ごしましょう」 「・・・・はい。そうですね、先生」 英翔も、テーブルに置かれたグラスを手に取る。 それを山田のように、一気に飲み干した。 胃に何も入っていなかったので、アルコールは瞬く間に全身に広がり、思考をほど良く蕩けさせる。 意識が甘くなり、先ほどまでの恐怖が薄れる。 そのまま、英翔は山田を酒を酌み交わした。 この宴会が終わるまで、二人きり。ずっと。
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