今回の作戦の目標である黒咲英翔の抹殺は完了。“息子達”の“母”であるルシータを失ったのは痛いが、替えが利かないというわけではないから子細ない。
これでまた一つ、近づいた。あの人の場所へ・・・。
火葬代わりの炎を見つめ、焼かれているであろう黒咲を悼む。これも全ては正義のため――――――そう、自分に言い聞かせる。
私も、あれほどの人材はできれば失いたくは無かった。だが、こんな世界に生きていれば暴力で物事を押し進めなければならないことも多々ある。
今回の一件も、そんな物事の内の一つ。
そうして、踵を返そうとした、その時だった。
「あああああああああ!!」
燃え盛る炎をから、咆哮が上がった。
それを聞いて、内藤は思わず足を止めた。
聞き覚えのある声だった。それもそうだ、この声の主は、自分がたった今殺したばかりなのだから・・・。
懐にしまっていた拳銃を、確かめるように触れる。
そして、振り向き様に抜き、弾倉に残っている残弾全てを炎の中へと叩き込んだ。
撃ち出したのは、僧会の造った特別製。弾丸型偽神葬具“修羅風船”。
弾頭には“刻印”が記され、それが地獄とこの世を繋ぎ、閻魔の炎を呼び出すと言われている――――。そんなものは、僧会の教科書上の話だ。
この“修羅風船”の実体は、科学技術の粋を集めて開発した特殊可燃性鉱物の賜物なのだ。
見た目の性質も普通の鉱物とほぼ一緒だが、極度の衝撃と熱を受けると一定時間が経過してから爆発するのだ。
弾頭は発射される際に、起爆に必要な衝撃と熱を受け、ゆっくりと連鎖反応が開始される。
その反応が全体の質量の五十パーセントを超えると、C4もかくやというほどの危険な爆発を起こす。風速、熱量、は共に殺人には過剰すぎる数値を持っている。
また一定時間以内に弾頭が着弾してしまった場合は、弾頭が目標に直撃し形状が変形することにより中の炸薬が爆発することで強制的に爆発させる。
炎の中へと向って放った弾丸が、爆発した。
数発の弾丸が続け様に爆発し、相乗効果により規模を増す。
内藤はそれを床に伏せることによって何とか防いだ。頭上を、物凄い爆風が通過していった。
「・・・やったか」
恐る恐る立ち上がり、目の前で先より勢いを増して燃え盛る炎を見つめ、呟いた。
黒咲が生きていたとしても、今度こそ死んだだろう。
“修羅風船”数発分の直撃を受けたのだ、当然の結果だ。
だが、その結果は脆くも裏切られた。
一陣の、風が舞い起こった。
まるで台風の只中にいるようなその強風は、修羅風船の爆発で出来た炎の海を瞬く間に消し去った。
そして、内藤は愕然とした。自分の目に映った光景に。
巻き起こる風を従えて、英翔がすっかり鎮火してしまった炎から姿を現したからだ。
しかも、その身体には傷一つ付いていない。修羅風船の乱射を諸に喰らったはずなのに、何故だ。
まさか英翔も偶像写経を持っていたのだろうか。そんなはずはない、彼がKOTRTから偶像写経を配給された記録も、入手した記録も無かった。
ルシータに監視をさせておいたから、何処かで非合法的に手に入れた可能性も無い。
なら、何故ああも悠然と立っていられるのだ。何故・・・・。
「内藤さん・・・」
「な、何だ黒咲」
消沈したような、暗い声で話し掛けてくる英翔にぎこちなく応える。
英翔は顔を伏せていて、その表情は読み取れない。
「ルシータと、あの髑髏面たち・・・あれは本当に内藤さんの差し金ですか?」
どう答えるべきだ。
イエス、と正直に全てを曝け出すのか。
ノー、と偽り、騙すのか。
ならここは賭けに出るしかない。どの答えがどういう結果を導くのか、全てを天に任せる。
「そうだ、彼らは私の私有の部隊だ。それがどうかしたか?」
あくまで気丈に、力強く。
相手に自分が怖気づいていることを、絶対に悟られてはならない。
相手のペースと気迫に飲み込まれたら、勝ち目は無い。
「どうして、こんなことをしたんですか?」
「・・・・それを聞いて、お前はどうするんだ?」
そう問い返されて、英翔は言葉に詰まった。
そうだ、たとえ内藤の事情を今さら把握したところで、何になるというのか。
何の意味も無い。それに、相手が容易に口を割るとも思えない。
「腑に落ちない、からです」
「そうか・・・・。なに、私も最初は黒咲を殺すつもりは無かった、穏便に事が進めば私もこんな手荒な真似はしなかったよ」
「本当ですか?」
「ああ、本当だとも。私はこれでも責任ある立場にいるものだ、無意味な殺生は出来るだけ避けたいのだよ。だが、状況がね。良くなくなったんだよ。もう。
だから私も強行手段に出るしかなかったんだ」
英翔が内藤に向ける視線は、相変わらず不審の念を抱いている。
普段は冷静沈着な彼を、ここまで無謀な行動に駆り立てた理由は何なのだ。それが説明されていない。
「お前は自分に監視がついていたことを知っているか?」
「はい、内藤さんの差し金であるルシータ。それに、御老公と山田先生がついていた」
「良く知っているな、それなら話は早い。黒咲・・・・・・・・お前は、真門に狙われている」
「な・・・!?」
真門、という言葉を聞いて英翔は狼狽した。
以前御老公や山田から真門の暗躍については聞いていたが、自分を狙っていたなどとは初耳だ。
そもそも何故自分が狙われるのか、その理由がわからない。
「君は、真門が行おうとしている恐ろしい儀式のために必要な“門”なんだ」
「恐ろしい儀式?」
「詳しい内容は話せないが、そうだ。そして真門が儀式の実行のために本腰をあげて動き出したんだ・・・!」
「そして内藤さんはその儀式をやめさせるために、儀式に必要な私を殺そうとしたんですね」
「最初から殺すつもりではなかった。だが、今はもうそんな悠長なことは言ってられないのだ、分かるか?」
嗚呼、とても良く分かる。
つまりだ、最後はどんな揉め事でも――――――戦いによって雌雄が決するということだ。
英翔は、床に落ちていたサムライソードとエクス・カリバーンを拾い上げ、構える。
対する内藤は、すでに撃ち尽した銀の大型拳銃をホールド・オープンした状態のまま投げ捨てた。
そしてスーツの下に装着している肩吊り式ホルスターから、新たな銃を引き抜く。
先の銃とは対照的な、漆黒で彩られた大型のリボルバー。
それは、どのような銃にも見られない生物的な曲線を基調とした禍々しい形容をしていた。
偽神葬具、“渇望する獣”。
三大偽神葬具にも匹敵すると言われる程の脅威を秘めた銃で、この世に四つしかないと言われる銃型の偽神葬具だ。
それにしてもこの男、偶像写経や修羅風船といい、一体どれほどの偽神葬具を隠し持っているのだろうか。
きっと、まだ他にも隠し玉があるはずだ。
「行くぞ、黒咲。せめてもの情け、せめて楽に、もう一度死なせてやろう」
「・・・・・・・ええ」
英翔は生返事を返し、二つの得物を握り締めた。
“渇望する獣”が、火を吹き吼える。
撃鉄に尻を叩かれ飛び出した弾丸が、飛来した。
だが、その様子は驚くほど普通だった。
三大偽神葬具に匹敵するほどの名器であれば、どのような大仰な攻撃が飛び出すのかと思えば、全く違った。
唯の銃と、何ら変わらなかった。
撃鉄が雷管を叩き、薬莢内の火薬に着火。弾頭が弾けるように銃身から飛び出し、目標へと疾駆する。という、普通の銃と変わらない攻撃。
少し下目に狙いを付けられた弾丸は、英翔の足下に着弾し、コンクリートを破砕する。だがそれも、普通の弾丸と変わらない威力。
それこそ天地を揺るがす様な爆発を巻き起こすわけでもなければ、貫通に優れているというわけでもない。
そのあまりの情けなさに、英翔は――――気を引き締めた。
「・・・・」
無言のまま、険しい表情で内藤を見据える。
真剣な眼差しを向けられ、内藤は微笑みかえす。いかにも余裕、といった表情だ。
(今のは警告だ・・・・)
先の一発は、内藤なりの忠告だったのだ。
偽神葬具の中でも特に名高い“渇望する獣”。その伝承は少なく、現代においてその全容を知る者は少ない。英翔も勿論その一人だ。
だから、内藤は相手には全く予想出来ない攻撃手段という、とびっきりのジョーカーを持っていたのだ。
だが先の彼の発砲は、それをわざわざ相手にひけらかすのと同等の行為だ。何の意味も無い。
それどころか、相手に手の内がバレ、かえって自分が危うくなる。
しかし、それを覆す『何か』があるのだ。あの銃に。それが何なのか分からない限り、下手に手出しは出来ない。
だが、ジョーカーを持っているのはお互い様だ。
内藤にもジョーカーがあったように、こちらにもまた飛びきりのジョーカーが残っている。
きっと内藤は知らないだろう。
今の私が、どういう状況かを・・・。
「どうした黒咲・・・斬らないのか?」
「!?」
相変わらず銃口を向けたまま、内藤が言った。
あからさまに挑発している。
「じゃあ、遠慮なく・・・・」
英翔が、疾った。
這う様に姿勢を低くし、まっすぐに内藤へと疾走した。
サムライ・ソードの電源を入れる。
すると、唸るような重低音と共に刃が振動しだした。超振動刃、鋸の要領で、鋼鉄さえも切断する脅威の機能だ。
振動させる分金属疲労が激しくなり、すぐに刃の交換を必要とするのがネックだが、それを除いてもなかなか優れた一刀である。
内藤も、的のようにただ突っ立ている訳ではない。当然のように、反撃してくる。
構えるは“渇望する獣”、その照門と照星の直前上に英翔の姿を捉え、引き金を引く。
シリンダーに残った五発の弾を、残らずぶち込む。
(遅い・・・!)
だが、一発も当たることはなかった。
英翔は放たれた弾丸五発を造作も無く全て薙ぎ払い、迎撃した。
その一瞬の間の出来事に、内藤は驚愕に凍りつく。
ほんの少しのその怯み、戦場ではそれが生死の明暗を決めるのだ・・・。
立ち尽くす内藤の腹部目掛けて、英翔はサムライ・ソードの柄を突き刺すように伸ばした。
しかしその一撃は、内藤の信じがたい行動によって避けられた。
内藤は間一髪で、それを後ろに飛び退くことによってかわした。
勿論、英翔は彼が回避に移るであろうことは容易に想像できた。
たとえ左右にかわされても、残ったエクス・カリバーンの柄で対処できる。
それに、内藤が立っているのは屋上の端だった。
少しでも後すざめば、そのまま足を踏み外して転落する。だから、彼が後ろに避けることだけは絶対にないと思っていた。
だが、彼は後ろに退き――――屋上から跳んだ。
英翔は、自分の肝が浮かび上がるように冷えてくのを感じた。
内藤が屋上から飛び降りる姿と――――――自害したチェルノボグの姿が重なる。
靴の裏に仕掛けられた爆弾、自ら屋上から飛び降りる――――様々なワードが、頭を埋め尽くす。
それは、彼の判断を大幅に鈍らせた。
「まだまだ甘いな、黒咲」
「え?」
落ちた。そう思った。
内藤は、屋上の端から自ら飛び降りた。彼は人間だ、鳥のような翼も、別脈種のような人外の術も無い。
だから、彼はそのまま重力に引き寄せられ、地に落ちたと・・・思った。
けれど、彼は飛んでいた。飛んで、英翔の目の前に佇んでいた。
鈍った頭が、急速に活性化する。
内藤が、空になったローダーを投げ捨てている姿が目に入る。
マグチェンジを終えた“渇望する獣”の銃口が英翔を見つめ、赤く光った。
「ぐっ!」
くぐもった発砲音と共に吐き出された弾丸を、英翔は何とか身を捻ってやり過ごす、だが体勢が不安定になり、たたらを踏む。
「後ろに避けることは無い―――――そう思っていただろう?浅慮だな。お前は、私がどれほどの偽神葬具で身に付けているか知っているのか?」
偶像写経、修羅風船、渇望する獣・・・。
そうだ、彼は数多くの偽神葬具を有してこの戦いに望んでいる。若くしてKOTRTの総責任者になるほどの男だ、準備に抜かりは無いだろう。
なら、まだ何かを隠し持っているということも十分に考えられる。だが、自分はそれを怠ったのだ。完全に出し抜かれた。
「空を飛ぶ偽神葬具・・・・・金剛の四肢輪、“飛天輪”か!」
「気付くのが遅すぎたな」
もう、ジョーカーを出し惜しみしている場合ではない。
こちらからも、仕掛ける。
飛びっきりの切り札、とくと見るがいいさ―――――。
宙に佇み、見下すように視線を向けている内藤に向って胸のうちで吐き捨てる。
「ガンバレル、起動・・・・・・」
「何だと?」
内藤は、一瞬聞き間違えたかと思い、問い返した。
ガンバレルを起動。
そんなこと、今の英翔にできるはずはない。内藤は英翔が病魔に蝕まれ、内気を伴った行動が出来ないことなど当の昔に調べ上げている。
だからこそ、今回の戦いに挑んだのだ。
いくら両極といえども、弱体化したときを一斉に襲われればひとたまりも無いだろう。
これなら、被害も最小限により確実に仕留められる――――そう踏んでいた。
だが、何故だ。
英翔の服の左袖が吹き飛び、その下のガンバレルが露になった。
紅い、回路図のように血走った模造の変換式・・・。真門が作り上げた、身体を犠牲にした悪魔の産物。
ガンバレル。
「馬鹿な!黒咲、お前―――――死ぬぞ!?」
「死にはしない。私の身体にはもう、何の障りも無い」
「どういうことだ!?」
うろたえる内藤を哀れに見つめながら、誰にも聞こえないように。
「分からないだろうな、ルシータを道具としか考えなかったあなたには・・・・」
あの、炎を中で、英翔は自分の体の様子が違うことに気が付いた。
まるで、何かがすっぽりと抜け落ちたように、身体が軽く感じられたのだ。
憑き物が落ちた、とでも言うのだろうか。とにかく、透き通ったような感覚だった。
そこで、初めて気が付いたのだ。
彼女の唇を流れた、あのタールのような液体の意味が。
あれは、私の身体の中に蔓延っていた“癌”だったのだ――――。
彼女が、私を生き返らせる間際に、体から吸い出したのだろう。
私に、生きろ言っているんだ。
生きて、ルシータという少女が生きた、儚く短く、それでいて忘れてしまうにはとても切ない、軌跡・・・。
それを、私と言う人間に憶えていて欲しかったのだ。
エクス・カリバーンから内気を引き出し、足下に反重力を展開した。踝から下を、赤い燐光が包んだ。
英翔も内藤のように、地から足を離す。
ガンバレルを起動した全力に加え、エクス・カリバーン。
負ける気が、しない。
「内藤さん、今なら私はあなたを許せる。自らの過ちを認めてください」
「・・・情けをかけるのか?」
搾り出されたその声は震えていた。
恐れではない、煮えたぎるような憤怒に震えているのだ。
彼は、自分が手駒として扱ったものに尽く裏切られ、こんな状況に陥ってしまったのだ。
確かに、その気持ちも分からないでもない。
「いいえ、無益な殺生や殺し合いは避けたいだけです。情けをかけるつもりはありません」
「私を、舐めるなああああああああ!」
最後の、足掻き。
内藤は怒号と同時に“渇望する獣”を振り回すと、撃ち放つ。
うち、一発が偶然英翔の右腕に直撃した。ぱっと小さな穴が、腕に穿たれる。
だがそんなものを、英翔は気にもしなかった。
しかし、その着弾により、内藤は歓喜の笑みを浮かべる。
「あーっはっはっは!油断したな黒咲!この“渇望する獣”の弾丸はな、特別製の毒が仕込んであるんだ!」
「毒?」
「そうだ、どんな生物でも一撃で死に至らしめる強力な神経毒だ、人間と身体の構造が変わらない別脈種には一たまりも無い!」
その話をちゃんと聞いているのか、英翔はおもむろに傷口に指を突っ込んだ。
余計に切り開かれた傷口から鮮血が新たに溢れ、滴っていく。
引き出された指には、赤く染まった小さな弾丸が摘まれていた。それを、これ見よがしに内藤に見せ付ける。
「私には効かない」
「な、何故だ、どうして・・・・・・・・黒咲、お前、その眼はいったい――――ッ!?」
内藤は、英翔の眼を指差す。
英翔の家系、つまり黒咲の一族は生粋の日本人の家系だ。
近親相姦のみで代を重ね、血を色濃く残すこの血統には、一切の混じり物は無い。
だから、髪の色も、眼の色も、抜けるような黒。
実際、内藤が知っている英翔の眼は黒色だった。だが、今は―――――。
透き通るように鮮やかで、沈み込むように深い・・・・・・・・蒼。
その蒼い眼を見て、内藤は震え上がった。
英翔の眼の蒼さは、ルシータの眼の蒼さと全く同じだったからだ。鮮やかで、深い。
「く、来るなああああーーーーーー!」
半乱狂状態に陥った内藤は、なんの考えもなくトリガーをむやみやたらに引いた。
もともと、彼の精神は戦場という場所の緊張感は耐えられなかったのだろう。
だから、こんな少しの事でこうも脆く崩れてしまう。
そう思いながら、弾丸をかわしつつ、英翔はエクス・カリバーンを一閃した。
「うっぎゃあああああ!!」
内藤の絶叫があがる。
彼は叫びながら、急いで近くの建物の屋上に降り立った。
もう、一分もこの痛みは我慢できなかったのだ。
「あ、ああああ!私の・・・!ああ、私の・・・あ、ああ・・・足があああ!!」
右足を必死に押さえながら、金切り声をあげる。
彼の右足の膝から下は、無かった。
ばっさりと無くなり、血が脈打ちながら流れている。
今まで感じたことの無い激痛に悶え、床の上を転がりまわる。
「痛いですか?」
「く、黒咲・・・・!私の、あ、足をよくも・・・!」
何時の間にか、内藤の傍らに英翔が立っていた。
英翔は悔いるように、右足を押さえてうずくまる内藤を見つめている。
「く、くそ・・・!こんな傷ぐらい、すぐに・・・!」
そう言いながら内藤はスーツの内ポケットに手を突っ込み、中から偶像写経を取り出す。
が。
取り出した偶像写経を使用することを制するかのように、刃が突き立てられた。
英翔の構える二振りの刀剣の内の一つ、サムライ・ソードの刃だった。
「な!?」
「その痛みは、あなたが犯した過ちの痛みだ。そんなモノで誤魔化すことは、私が許さない」
「黙れ!早くしなければ、偶像写経の有効刻限内に傷を治さなければ・・・・この足は元に戻らん!」
貫かれた偶像写経に見切りをつけると、内藤は懐から新たに取り出そうとする。
だがそれすらも、英翔は許しはしなかった。
今度はエクス・カリバーンで、懐中の偶像写経を探す内藤の腕を突き刺す。
「っがああああ!」
足の痛みに加えて、今度は腕の痛み。内藤は今正に気絶寸前の状態だ。
正気を保つのが精一杯で、手立てを考える余裕など無い。
何とかして腕を貫いているエクス・カリバーンを引き抜こうとするが、どうすることもできない。
刃を握れば手の平が切れ、無理に腕を動かせば傷口が深くなった。
「あなたは一人の命を奪った・・・なら、傷の一つでも背負え。それが道理だ」
蒼く、真っ直ぐな瞳で言い放つ。
別に仇とろうとかいつもりではない。
だが、相応の償いを彼にして欲しかった。
その罰を下すのが自分の役目ではないことぐらい分かっている、今自分がやっていることが“悪”だということも。
けど、私が下さなければ意味が無いのだ。
私は、ルシータと共にいるのだから・・・・。
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