「せいっ!」 「うわああああああ!?」 威勢の良い掛け声と共に、英翔は片腕を掴まれたまま、放り投げられるように背負い投げされた。 布団を叩くような、派手な音と共に、背中かから畳に叩きつけられる。 足場が畳だから良かったものの、これがコンクリートなどだったら洒落にならない事態になっているところだ。 「どうした!そんなことでは時間内に修了する事は出来んぞ、立て!」 道着を着込んだ巨漢、KOTRTの隊員であるガルボ・フォルキンが、英翔に喝を入れる。 KOTRT内で、別脈種の者に対人格闘を教えているだけのことはある。 それに、無言のまま英翔は立ち上がった。 口の中に溜まった、血の塊の吐き出す。 何故、こんな事になっているのか。 それは、つい数時間前まで、霧恵と結ヱと一緒に和やかに話していた英翔のもとに、急にガルボが訪れた。 突然の事に戸惑う英翔たちに構わず、ガルボは英翔の首根っこを掴むと、そのまま仮設本部の司令室まで引きずって行った。 そしてまたも唐突に、こう告げられた。 『エイショー、一つお前に言っておかねばならない事がある』 『え?あ、はい。なんでしょう?』 『お前を、今回の作戦に使うことは出来ない』 『は・・・?』 英翔は、一瞬己が耳を疑った。 今回の作戦に使うことは出来ない。 それ即ち、今回私に出番は無いということだ。 これからもうすぐで始まる東京奪還作戦に、参加できない。 そんなことが本当にあるのか。 いま私を、奪還作戦の為の戦力として、書くことなど出来ないはず。 KOTRTは全員が揃うことが滅多に無いので、いま此処にいる自分を割くことなど、はっきり言って懸命な判断とは言えない。 『な、何故ですか!?』 『これだ』 『・・・?』 食って掛かる英翔の目の前に、ガルボは一枚の書類を突きつけた。 それは、KOTRTに在籍する者が持つ、対人格闘カリキュラム修了の証文だ。 『お前は、この対人格闘カリキュラムの修了証書を持っているのか?』 『・・・・・いいえ』 『そういうことだ。お前も、一端のKOTRT隊員なら知っているだろう。  KOTRTの隊員は。別脈種である場合、この対人格闘の講習を受けねばならん。でなければ、常人を相手にする作戦には参加できない。  これはK・I条約にも明記されている。よって、これを修了していないお前は、この作戦には参加できない』 『そ、そんな!じゃあガルボさんは、私にここでずっと指をくわえて待ってろと言うのですか!?』 『条約上はな・・・・・しかし、私も今回この奪還作戦の指揮を任されている以上、万全な戦力で挑みたい』 『なら私を作戦に―――――ッ!』 『だから!今からお前には、これから対人格闘を修了してもらう!』 『・・・・は?』 『本来なら、半年かけて基礎から応用までを叩き込むのだが、今回は時間が余りに少ない。よって―――――!  今からお前は。六時間、私と組み手をしてもらう』 『組み手・・・ですか?』 『そうだ。ジュードーはできるか?』 『ええ、格闘技は全般的に出来ます』 『なら話は早い、これから作戦開始までの八時間の間、お前は私と組み手をし、その中で別脈種流の対人格闘を学んでもらう!』 そうして、仮設本部の司令室から、こんどは最寄の公共の体育館に引きずられ。 道着に着替えさせられ、今に至っている。 「はあっ!」 「甘い・・・」 英翔は果敢に掴みかかりに行くが、それはいとも容易く掴み返され、ひらりと投げ返される。 その度に、背中から畳に投げ落とされた。 「くそう・・・やっぱり、無理なのか・・・!」 条件。 組み手を始める前に、ガルボが英翔に課した、一つの条件。それは。 ―――――この私を、殺さないように組み伏せろ。 ただそれだけであった。 最初それを聞いた時、英翔は胸を撫で下ろした。 意外と、簡単なんだな。とまで思ったほどだ。 しかし。 「早く立ち上がらんか!時間は一分一秒無駄にしてはならん!」 「うおおおおお!」 素早く立ち上がると、英翔は再び突進した。 しかし、結果は同じ。 翻すように、ぶん投げられる。 殺さないように組み伏せる。 ただそれだけの事が、こんなにも難しいことだったとは。 考えれば、至極単純なことだ。 殺すということは、英翔からしてみればただ全力を出せれば出来ることだった。 それ以外いらない。 全力を出せば、両極という別脈種の中でも極大の力を持つ、英翔の力だ。 人間など、ひとたまりも無く、無残な肉塊に成り下がるだろう。 しかし、殺さないということは違う。 力を、かなり制限し、正確にコントロールしなくてはならない。 でなければ、うっかり殺しかねない。 「エイショー、お前は『奇術師』の心得を知っているか?」 「・・・躊躇せず。何事も『起こる』前に処理すべし」 「そうだ、本来人間は別脈種と相対するとき、大抵は不意をつく。でなければ、脆弱な私たちはひとたまりも無く捻り潰されるからな。  別脈種の前では、受動的な行動は死を招く。それほどに人間と別脈種の間の力の差は大きい。  しかし・・・このジュードーという格闘技は違う。奇術師において禁忌とされる、『受身』を重んじている。基礎から習うにしても、  先ず受け身から学ぶ。『負ける』ことを学ぶのだ」 「それが、この組み手と一体何の関係が・・・?」 「分からんか?つまり、この場において別脈種であるお前は『殺す側』。そして人間である私は『殺される側』だ。  ・・・・・それを、覆してみろ・・・!」 「・・・・・ッ!?」 今度は、ガルボの方から英翔に向かって突っ込んで来た。 英翔は身構えるが、たじろいでしまう。 もし本気の力を出してしまったら、殺してしまうかもしれない。 その気の迷いを、ガルボは見逃さない。 「そらっ!直ぐ気を抜くな!」 「ぐっ!」 襟首を掴まれ、軽々と投げられる。  「貴様!こんな調子では作戦に参加することなど、夢のまた夢だぞ!」 「・・・・・」 英翔は、その罵声に答えない。 ただ、挑むようにガルボを見つめていた。 その視線だけで、ガルボには、英翔がもう何か掴み始めていることが手に取るように分かった。 英翔は、両極であるが故に、その強大すぎる力の微細なコントロールが難しい。 だが、この組み手はコントロール云々が問題なのではない。 コントロールは、所詮二次的なものに過ぎない。 それに英翔が気付けば、この組み手は終る。それもすぐに。 「・・・・何か、見えたか?」 「・・・・ええ、もう一度かかって来て下さい」 「そうか、なら――――――――ゆくぞ!!」 真っ直ぐと見据えてくる英翔に向かって、ガルボは突進した。 それは、先程までとは気迫が違う。 まさに荒れ狂う猛牛のようだ。 ガルボの、筋肉で盛り上がった豪腕が繰り出される。 それは、英翔の道着の襟首に向かって真っ直ぐ伸びる。 しかし、その手は襟首を掴むことはなかった。 襟首を掴むはずであったガルボの腕は、見事英翔の顔面を直撃した。 鈍い、まるで木槌で地を打つような。そんな音が響き。 ガルボの腕には、自分の手が、英翔の頬骨を打ちつけた感触が伝わってくる。 「・・・!?私の腕に、わざと当たりに行っただと!?」 「・・・覚えた・・・・・」 「!?」 英翔は、寸での所で、自らの顔をガルボの腕の軌道上に向けたのだ。 それは人間の力を知るため。 人間の、『脆さ』を知るためなのだ。 「なっ・・・・!?」 気付けば、今度はガルボの体が宙を舞っていた。 大きすぎる身体が、派手な音と共に畳に叩きつけられる。 「ふう・・・・なかなかの物だ」 だがガルボは、なんのダメージも無いと言わんばかりに、むっくりと起き上がった。 「出来るではないか。エイショー・・・・これにて、修了だ」 「え?もう良いんですか?」 あまりにあっさりと、修了を了承したガルボに、英翔は半ば拍子抜けした。 もう一捻りぐらいあるかと思っていたが、違うようだ。 「この組み手は、お前が人間の脆さを知れば、それだけで良かったのだ」 「え・・・?」 「お前は、別脈種としても、一格闘家としても優れている。ならば、あとは簡単な話だ。  その身体に、いかにして人間の身体の脆さを教え込むか。それさえ知れば、お前の場合は、身体が勝手についてくる」 「じゃあ―――――」 「ああ、これにてカリキュラム修了。ならびに、奪還作戦への参加を許可する!」 「あ、ありがとうございます!」 英翔は、深く頭を下げた。 それに、ガルボは満足そうに頷く。 「さて、それでは早速司令室に戻ろう。これからは忙しくなるぞ」 「覚悟の上です」 道着から各々の服装に着替えると、二人は仮設本部の司令室へと向かった。 仮設本部の外観は、軍隊などに良く見られる迷彩柄の大きなテントだ。 だが、中にはもう電気や水道などといったライフラインが、すでに通っている。 こういう、無駄な所が、妙に先進国らしさを醸し出している。 自衛隊員が、奪還作戦に向けて準備している中を、ガルボと、その後ろに隠れるようについている英翔は堂々と通過する。 そして、仮設本部でも最も置くに位置している部屋へと入っていった。 そこは仮設本部という体裁にしては、なかなかしっかりとした作りだった。 入り口は垂れ幕ではなく、きちんとしたドアで。壁も防弾処理などが施されており。 各種レーダー等の機器の反応も、ここで一望出来る様になっている。 その部屋のど真ん中に設置された、大きなステンレス製の長テーブル。 卓上には東京一帯を記した地図が置かれており。 両脇には、二人の人物がすでに座っていた。 司令室に入ってきたガルボと英翔に向かって、そのうちの一人が手を振ってくる。 「よお、遅かったじゃねえか英翔。待ちくたびれたぜこっちは」 長テーブルに、組んだ両の足を堂々と乗っけているパンクヘアーの若者。 彼は英翔を見るなり、親しそうに話し掛けてきた。 「き、響次!?響次までこの作戦に参加してたのか!」 「応よ。悪いか?良いじゃねえかよ、久々に一緒に暴れられるんだ。楽しくやろうぜ」 司令室のテーブルに横柄な態度で居座っているこの青年。 名を片峰響次といい、KOTRTの第十一席である。 英翔とは入隊以来の戦友で、共に幾多の戦果を上げている。 そして、響次とはテーブルを挟む様にして座っている、もう一人の女性。 「ガルボ、早くして頂戴。さっきからこのハリネズミが煩くてしかた無いのよ」 「ああ!?んだとこのアマ!」 罵られた響次は、視線の先を英翔から、その女性へと変えた。 しかし、彼女の態度は相変わらず落ち着きを孕んでいる。 この女性は、かつて霧恵さんの黒い天使の事件の際に開かれた査問会に出席してもいた人物。 ベルゼルド・レッツェル・ヴィードルッシェ。 KOTRTの第三席にして、かのベルゼルド・ナッシュ・リンガムド学院・・・通称『学院』の院長。 そして英翔と同じ―――――両極でもある。 『黒咲』は何億分の一の確率で、英翔を両極として生んだが。 『ベルゼルド』は50年に一人という、高い確率で両極を輩出している。 それが、ベルゼルドを『御三家』たらしめる理由の一つでもあるのだ。 「それでは、面子も揃ったところで、早速作戦会議に入ろうではないか」 「ちょっと待って、ガルボ」 催促した張本人であるヴィードルッシェが、ガルボに待ったをかけた。 「どうした、ヴィードルッシェ嬢?」 「面子が揃ったって・・・まさか、このたったの四人だけ?」 「そうだが・・・問題があるかね」 「有りも、大有りに決まっているじゃない。いくらこの部隊が召集の率が悪いって言っても、たったの四人ってのはどういう事よ!」 「確かに、東京が占拠されたというのに、危機感が足りないのは私も同感だ」 「そうよ!それに、なんであの隊長面した貴子まで居ないのよ!」 「―――――――――ッ!?」 急に、頭痛がした。 焦げる様に痛い。 まるで脳内のシナプスが、何かを必死に思い出そうとしているようだ。 何か、大事なこと。 記憶の端に引っかかった、微かなヴィジョン。  −『 英 翔―――― 』− 誰かが、呼ぶ声。 腹部の傷が、疼く。 怒るように熱く、滾る様に激しく。 「・・・・・・・・・・・そうだ、あの時―――――っ!」 記憶にかかっていた靄が、晴れた。 あの時。 コウタカに、腹を掻っ捌かれた。 意識も無く、もうすぐ息絶えようとしていた、あの時。 貴子さんの、後姿を見た気がした・・・・。 己を叱咤する。 何故。 どうして。 今の今まで気付かなかったのだ。 目先の感情にばかり捕らわれて、周りが全然見えていない。 そんな自分の未熟さにも、腹が立つ。 あの男の事にばかり、気をかけて。 大切な人まで、見失っていた・・・。 「どうした、エイショー」 「貴子さんは・・・・・・あの男――――コウタカに、連れていかれました」 「なに!?」 英翔の言葉に、司令室にいた者全員が驚愕した。 まさか、あの隊長を易々と連れ去るとは。 「・・・それでは、香坂貴子第一席の救出も優先任務の一つだな・・・」 呟くガルボの声は、室内に良く響いた。 皆、一様に口をつぐんでいた。 KOTRTにおいて、香坂貴子という女性の存在は大きい。 個人個人が、突出した戦闘力を持つKOTRTは、その強すぎる戦闘力ゆえに統率が、ほぼ不可能であった。 それぞれが独断と専行に走り、無謀なスタンドアローンを繰り返す。 そんな収拾のつかない部隊を一つに纏め上げたのが、 香坂貴子。 その人なのだ。 部隊における彼女の功績は大きい。 天性のカリスマ的統率力。 それほどの人物を連れ去られたという事実に、各々は言葉を出せずにいた・・・・・。 時を少し遡る事、場所は京都の山間部。 その緑多き地の上を、一機の戦闘機が劈く様に駆け抜けていく。 F-22。 進化しすぎた戦闘機という異名を持つこの機が、京都の空を切り裂いてゆく。 複座であるそのコクピット後部座席には、場違いなスーツ姿の男が腕と足を組みながら座っていた。 その顔は、子供のように不機嫌に膨らんでいる。 「お邸まで、あと百三十秒です。御準備を」 「わかった・・・」 前の操縦席から、パイロットが到着時間を告げる。 内藤はそれに、無愛想そのものの様な、不機嫌な声で頷く。 程なくして、山の連なりが途絶える。 そして見えてきたのは、広大な平地だった。 初めて見る者はきっと、この京の土地の中にこれほどの広大な敷地があったのかと目を疑うことは間違いないだろう。 良くテレビなどで土地の大きさをドーム球場等と比較するが、この土地をドームの数に直すのなら。 東京ドームが、四つは飲み込めるほどの広さ。 想像を絶するほどの敷地の中央には、まるで陣取るかのように、塀に囲まれた邸宅があった。 平安などの貴族の屋敷を彷彿させるそれは、広大な敷地を存分に余らせている。 その邸宅の門前に、F-22はブイ・トールで舞い降りる。 機体が着陸するやいなや、後部座席に座っていたスーツ姿の男は颯爽とコックピットから翻るように降り立つ。 そして目も暮れず、目の前に構える大邸宅に足を踏み入れていった。 「まあ、こんな御時間にどうなされたのですか!?内藤様!」 出迎えた女中が、いきなり上がりこんできたスーツ姿の男――――内藤の姿を見て、驚きの声を上げた。 それに構わず、内藤は屋敷の奥へと歩みを進めていく。 「御館様に話がある、今は何処に居られるのか!」 「お、御館様は、とうに床に就かれております。謁見ならまた日を改めて――――」 「煩いぞ、余なら此処に居る。いちいち騒ぎ立てるでない」 「御館様・・・・!」 内藤が突き進む廊下の奥から、少年とも少女ともとれる、中性的な声が響く。 そして、廊下の陰から、うっすらと水面から浮かぶように、一人の人物が姿を現す。 「どうした・・・・内藤、こんな夜更けに」 「申し訳御座いません、御館様。しかし事態は一刻を争うのです・・・!お聞きしたい事が御座います」 内藤は廊下で傅くと、俯いたまま嘆願した。 そんな内藤に、廊下の奥陰から姿を現した・・・その声音と同じように、少年とも少女とも見て取れる人物は、ゆっくりと歩み寄る。 着ているのは着物だが、わざとラフに着崩されている。 「余に・・・伺い事だと?」 「はっ。いま、東京がテロ組織に占領された事は御存知のはず・・・!」 「ほう・・・・そのような事が起きておるのか、なに『真門』は世事に疎いのでな、そういう事は――――――」 「茶化さないでください!あれほどの技術―――――!!世界中探しても、『真門』以外に保有している者は考えられません!」 「・・・・ふふ、そうだ余の差し金だ。あの者共は・・・・」 真剣に訊ねてくる内藤に、 真門 黎明は事も無げに答えた。 そして、傍らに立っている二人の少女の頭を撫でる。 黎明の両脇にいるこの少女達もまた、着物を着ていた。 双子なのか、顔はそっくり。番の日本人形のようだ。 「高精度ナノマシン、実用化レベルに達している無人攻撃機UCAV 、携行可能なレールガン、  そしてどの先進国軍にも見られないような、新型のランドウォーリアー・・・・・特殊外骨格装甲・・・!!」 「良く調べたな。感心するぞ」 そう言いつつも、黎明は内藤の話に耳を傾けている様子は無い。 相変わらず、両脇に立っている少女達を愛でている。 「・・・・・・聞いておられるのですか・・・・それに、その幼子は!?」 「ん?ああ、これは余の玩具おもちゃだ気にするな。それにお主の話にもきちんと耳は向けておる・・・・・・そうだ内藤・・」 「何に御座いましょうか?」 「今から余が視察に行こうではないか・・・・余が発案し、余が育てた部隊をな・・・」 恍惚としながら呟く黎明の視線の先は、内藤を捉えてはいなかった。 その遥か先・・・・。 まるで未来を見透かし、嗤っているような・・・・そんな視線だった。 「では、これからの作戦内容を改めて説明させてもらおう」 教鞭のような指示棒を握りながら、プロジェクターで投影された映像を背にガルボが説明を開始した。 それを、英翔、響次、ヴィードルッシェがそれぞれパイプ椅子に座りながら清聴する。 「先ず、敵戦力の再度説明から行おう。  現在“シグルドリーヴァ”は、ナノマシンを用いて東京都民のおよそ四百万人を操っている。そしてさっき調査班から入った新たな情報では、  このナノマシンは脳から直接身体を支配するだけでなく、脳内の様々な化学物質を操作することも可能で、  身体能力を強制的に限界付近まで引き上げることが可能らしい。  上空の守りに関しては、敵が持ち込んだであろう無人攻撃機UCAV。そして携行型レールガン。  そして“シグルドリーヴァ”の構成員についてだが、これが一番厄介かもしれん。構成員は全て、超次世代型ランドウォーリアー装備を施されている」 「ああ?なんだそりゃ、もっと分かりやすいコトバで言ってくれよ」 ガルボの説明に、響次が初めて口を開いた。 そんな響次の態度に、ガルボは咳で一喝する。 「つまり・・・パワードスーツとでも言ったほうがイメージし易いかな。それも、とんでもない高性能なものだ。  自衛隊からの情報を総合するに、恐らく全天候対応型で長時間稼動が可能。サーマルやソナー、レーダー等のセンサー類も考えられる。  ・・・ここまでで、何か質問はあるか?」 「ちょっといいかしら?」 ヴィードルッシェが、いち早く挙手する。 「何だ?」 「それほどの装備・・・いくら世界的に著名なテロ組織とて、用意できるものなのかしら?ちょっとハイテク過ぎない?」 「・・・・それについては、まあ、その・・・・・調査中だ」 そう言葉を濁す仕草は、いつも思い切りの良いガルボには不自然だった。 そんな彼が言葉を濁す理由・・・・それは一体何なのか。 「では、次はいよいよ奪還作戦についての内容について説明する。  本作戦は基本的には各自別行動を取り、それぞれに与えられた任務をこなしてもらう。  先ずヴィードルッシェには、ナノマシンの操作系統を叩いてもらう」 「あたし、そんなのどう対処して良いか分かんないわよぉ?」 「お前ほどの錬精術師なら、ナノマシンを操作している電波ぐらい辿れるだろう。頑張れ。  次は・・・響次。お前には東京都内に取り残された自衛隊員の救出を担当してもらう。  その他にも生存者がいるなら、それも同様に保護してもらいたい」 「まだ生きてんのか?そいつら?」 「でなければ任務にならん。それと、いちいち文句を言うな!  で、英翔。お前は、敵の本陣に乗り込んでもらうぞ」 「あ、はい―――――――――って、ええええええええええ!?」 さりげなく、かつ唐突に大役を任された英翔は驚きの声を上げる。 「わ、私が敵の本拠地に!それも単身で!?」 「そうだ。お前は敵の本陣に乗り込み、統制系統を叩いてもらう。それに人質の救出も頼むぞ」 「・・・・そ、そんなことまで・・・?」 「だからいちいち文句を言わない!」 各々が子供のように文句を挙げるのを、ガルボは怒鳴って制しようとするが。火に油を注ぐだけだった。 ヴィードルッシェと響次は一緒になって喚き散らし、英翔はプレッシャーに気を落としている。 そんな騒がしいことこの上ない作戦室の鉄製のドアが、突如ノックされた。 唐突な訪問に、作戦室内は一転して火が消えたかのように静まり返る。 そして、こちらの返答を待たずして、ゆっくりとドアが開いた。 そこらか姿を現したのは、黒のスーツにポーカーフェイスの男。 内藤 洸一だった。 それにほっとした作戦室の一面だったが、それは直ぐに再び凍りついた。 「中々の騒々しさだったな・・・『KOTRT』よ、もう余裕といった様子か」 内藤に続いて、ドアから姿を現した、もう一人の人物。 それは、少年とも少女とも取れる中性的な声音をしている。 御三家の一つにして、別脈種最古を誇る大家・・・・そして、その当主。 「・・・?どうした、そのように静まり返って」 真門 黎明。 『真門』当主にして、この内閣直属組織「KOTRT」の発案・創設者。 御歳既に五十を超える筈の、その姿は・・・・二十歳を間近に迎えたかと思うような若者であった。 黎明は、作戦室の一面に、ゆっくりと視線を巡らした。 「おお、ベルゼルドの世継ぎか。久しいな、新年以来か」 「は、こちらこそ。相変わらずの快調、なによりです御館様」 「世辞は良い・・・と言いたい所だが。そうだな、もう今年で余も五十二にもなるが、相も変わらずこの体躯は好調よ」 五十二・・・。化け物か。 その数字を聞いて、響次は胸中で毒づいた。 別脈種は、いくら人間より優れているとはいえ、その寿命に大差は無い。 成長も老化も、人間と同じである。 しかし、この黎明という人物は違う。 まるで、時が止まったように。 その麗しい姿でいる。 そしてヴィードルッシェから視線を外すと、黎明は今度は英翔へと近寄って行った。 背中を曲げて、覗き込むように下から見上げてくる。 「な、なんでしょうか・・・」 英翔は、それだけの言葉を紡ぐだけで精一杯だった。 真門と黒咲とは、元々は主従関係にある。 いや、それ以前に『真門』は別脈種にとって揺ぎ無い絶対の存在なのである。 真門にとっては、例え大国であっても敵ではない。 一ひねりで、それを跪かせるであろう。 圧倒的な力。及ぶ道理など無い。 そんな一族の当主が今、自分の目の前にいる。 そのプレッシャーは計り知れない。 幾多の修羅場と死線を越えてきた英翔でさえ、気を保つのは精一杯だ。 「お主が・・・・お主が、余の“ヨグ=ソトース”か。なるほど、逸材だ」 「・・・・・え?」 「お主を見れただけでも、過ぎる収穫だな。帰る、送れ内藤」 「かしこまりました。表に迎えを回します」 英翔の疑問に答えぬまま、黎明は踵を返した。 その後を、内藤がついて行く。 黎明は内藤を引き連れ、作戦室を後にした。 ぱたん、と呆気なくドアが閉じる。 それと同時に、作戦室の面々は深いため息を吐きながら、パイプ椅子に深く座り込む。 まるで、今までこの室内から空気が抜かれていたように、荒く息を切らせる。 「な、なんだったんだよ・・・一体・・・!」 「こっちが聞きたいよ・・・」 毒づく響次に、英翔が力なく答える。 「恐らくは、『視察』だろうな・・・」 「視察だあ!?」 手で顔を拭うガルボが、苦々しく呟く。 屈強なイメージが強い彼ですら、今は先の唐突な訪問に肩を落としている。 「この『KOTRT』を発案し、実際に資金を出し、人員を集め、創設までこぎつけたのはあの御方だ・・・。  恐らく、この非常事態に対しての我々の働きぶりを見に来たのだろう・・・」 「たったそれだけかよ・・・人迷惑な話だぜ・・・」
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